※こちらは旧伊勢丹店ブログ、2024年11月5日投稿分を再掲載したものです。
こんにちは。

今回は久し振りにおよそ100年前、最初期の腕時計をご紹介します。
今日「ウォッチ」と言えば、もはや時計というより小型コンピューターと
呼んだ方が相応しい「スマートウォッチ」を思い浮かべる方も少なくないと思います。

時代の区切りとも言える一世紀の間に驚異的な進化を遂げた「ウォッチ」ですが、
一世紀前に「ウォッチ」と言えば、「ポケットウォッチ=懐中時計」を指すものでした。
当時すでに腕時計は誕生し、日々認知度を高めていましたが、
製造数はまだ懐中時計の方が多く、1930年代に入って腕時計が数を逆転するまで
多くの人にとっての「ウォッチ」は長い歴史を持つ懐中時計でした。

腕時計の誕生については諸説あり、統一された見解があるわけではありませんが、
当初は否定的な声を上げていた一部の保守層ですら取り込み普及していきました。
いかに実用的で着用する人々に満足を与えていたのかの証明になっています。

とはいえ1920年代においては、ウォッチが未だ贅沢品であったことには違いなく、
誕生して日の浅い腕時計も懐中時計の製作手法を色濃く反映していました。

その典型的な特徴の一つがダイヤルと針です。
大きめのローマ数字で描かれたインデックスは教会の時計塔の時代から
受け継がれた伝統的なデザインで、数百年の歴史を持つものです。

そしてこちらの針はカテドラルハンド等と呼ばれていたデザインのもので
これだけ小さな部品でありながら、緩急の効いた曲線の美しい作りで、
職人技が感じられる手の込んだものです。
ただそれ故に、懐中時計より小型で徐々に生産量も増えていく腕時計には
最適とは言えない部品でもあり、腕時計では本当に初期のものの
極一部にしか使われなかった希少なパーツでもあります。

そしてもう一つの印象的な特徴がベゼルに施されたエナメルです。
実用品とはいえ、選ばれた人々のみが所有を許される贅沢品であった
懐中時計においては装飾品としての需要も少なくありませんでした。
様々な技法がありましたが、代表的な物がこのエナメルでした。

懐中時計の場合は表や裏の蓋部分の面積が広く、
装飾を施すのであればうってつけのスペースでした。
この部分をキャンバスに見立て趣向を凝らした細工が施されました。
腕時計の場合は蓋のついたハンターケースはごく一部の例外でしたし、
腕に着用するため裏蓋も装飾部分としてはほぼ使われませんでした。
結果としてダイヤル周りのベゼル部分を、
装飾用のスペースとすることが多かったわけです。

こちらは角型をベースとしたケースに丸いダイヤルを組み合わせることで、
四隅に広めのスペースが生まれ、ここを装飾の主要部分とした効率的なデザインです。
少なめのスペースとはいえ、白と黒の2色のエナメルを効果的に使い分け、
地金との3色の模様のコントラストがとても美しく映えます。
ハンドメイドならではの逸品ですが、小さな腕時計の限られたベゼル部分に
模様を彫り込み、そこに釉薬を入れて高温で焼成する。
こちらも針同様腕時計に最適な技法とは言えませんでした。
結果的に第二次大戦後にはこういった時計を見ることはごく稀になり、
最高級ブランドの限定モデルなど例外的なものになってしまったわけです。

近代化の象徴とも言える腕時計ですが、懐中時計から腕時計への移行期
僅かな期間だけに見られたユニークなものは、一世紀の時が経過しても
変わらずに魅力を振りまいてくれます。
ぜひ一度実物をご覧になってみて下さい。
by M.A.
ティファニー
商品番号:D7025
ティファニー/ロンジン
1920年代
素材:K18YG エナメル
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