こんにちは。
今回ご紹介するのは、自身の30年以上の長いレディースアンティークウォッチとの
付き合いの中で、記憶にある限り初めて取り扱った1点です。

「ジェラルド・ジェンタ」
この名前に聞き及びのある方はかなりの時計通でしょう。
1960年代から90年代にかけて活躍した天才的な時計デザイナーで
「時計界のピカソ」とも称賛された人物です。
まだ「時計デザイナー」という言葉すらなかった時代に、
その比類なき独創的なデザインが数多くの時計メーカーの関心を惹きつけました。

代表的なところでは、パテックフィリップのノーチラス、

オーデマピゲのロイヤルオーク等が有名ですが、
他にもIWCやオメガ、日本のセイコー、果てにはジュエラーのブルガリに至るまで
彼の手掛けたデザインはとても幅広く、現在に至るまで高く評価されています。
当時はデザイナーの名前が表に出ることはほとんどなく、業界内でこそ引く手あまたでも
一般のユーザーにはその名が知られることはありませんでした。

しかしその溢れる才能は裏方に留まり続けられるものではなく、
時を経て彼自身の名を冠した時計を世に送り出すようになります。
筆者がシェルマンに入社して間もないころには、[Gerald Genta]の
ミッキーマウスの両手が時間を表示する時計が人気を博していたのを覚えています。
彼のデザインは日常使いにふさわしいスポーティなものやスタイリッシュなものが多く、
豪華なジュエリーウォッチというジャンルのものは当時あまり見かけた記憶がありませんでした。

こちらの時計はそんな希少なレディースのジュエリーウォッチで、
ダイヤル全面がパヴェセットのダイヤモンドで埋め尽くされています。
決して奇をてらったようなデザインではなく、シルエット自体はシンプルなのですが
そこは稀代のデザイナーならではの存在感がにじみ出ています。

オーバル型の文字盤ですが、よく見ると一般的なものと比べると
縦方向のカーブが緩やかになっていて、ちょっと日本の小判のような感じでしょうか。
ケースはベゼルからラグ部分まで斜め方向の丸みのある立体的なねじり模様が施されていますが、
その模様の角度が場所によって大きく変化し、独特のリズム感を生み出しています。
さらに縦方向の線をより緩やかにすることで、文字盤との形状の差異によって
4隅に大き目のスペースが出現、メリハリのある模様がより強調される結果となっています。

側面から見てみるとまた印象が大きく変わります。
この様なデザインの時計の多くは正面からのビジュアルに合わせて側面も同じような斜め線になりがちですが、
こちらは側面部にはほぼねじりが無く、立体的な畝模様になっています。

しかも上部のねじり部分と連続しているため、他の時計には見られない横方向へのベクトルも感じられて
決して単調には収まらない卓越したデザイナーならではの感覚がしっかり伝わってきます。

一般的にはダイヤルをダイヤモンドで埋め尽くすデザインの時計は、圧倒的にジュエリーとしての
役割を求められており、正直時間の視認性はほぼ求められていないことが大半なのですが、
こちらの時計は敢えて針を黒エナメル仕上げすることで、眩き輝きの中でもしっかり時刻が確認できます。

彼のデザインを見ると時代時代の常識というものに囚われることなく、
絶えず湧き出る自由な発想を形にしたものなのだろうなと思われます。
実際の製作現場の環境においては、すべてがイメージ通りの形になったとは限りませんが、
いまなお世界中の人から、場合によっては彼のデザインとは知らずに高く評価され
愛用され続けているという点ではやはり歴史に残る時計デザイナーなのだと実感します。

実は以前シェルマンの旧銀座店にジェンタ氏が来店され、
筆者も簡単なご挨拶だけさせていただいたことがあるのですが、
その芸術家然とした存在感の強さに感銘を受けた覚えがあります。
百聞は一見に如かず。ぜひお手に取ってご覧ください。








