※こちらは旧伊勢丹店ブログ、2021年5月14日投稿分を再掲載したものです。
こんにちは。
今回ご紹介するジュエリーはシェルマンでは珍しく第二次大戦後のヴィンテージのものです。

アンティークジュエリーのどこに心惹かれるか?という話になると、
「繊細で丁寧なハンドメイドならではの作り」
「時代の空気感をまとった気品あるデザイン」
「流行に流されず次世代へと引き継げる普遍的な美しさ」
「人と被らない1点ものの楽しさ」
といったポイントが多くのファンの方に共通するお声のように思います。
現代のジュエリーには現代のジュエリーならではの魅力があるので、
どちらが良い・悪いというものではないのですが、
やはり様々な理由から現代では作ることが困難な部分に強く惹かれるようです。

長い人類の歴史の中で第二次大戦後に特に大きく変わったのが社会体制でした。
私達が今暮らしている現代の社会のシステムの多くは、
戦後のわずか80年弱の間に常識となったことであふれています。
国や地域によって差はあるものの、階級制度の実質的終了、男女平等、普通選挙権の普及
外国旅行の簡便化、TVや電話、PCなどの情報機器の浸透、等々上げればきりがないほどです。
人類の歴史が始まって以来ほんの100年前までは、越えがたい壁があったり、
存在すらしていなかったものごとが、今ではごく普通に享受できるものになりました。

その近代的で効率的な文明の便利さと引き換えに失われてしまったもの。
アンティークの品々にはその片鱗が残されており、一見無駄とも言えるそのエッセンスに
無性に惹かれてしまうのもやはり人間ならではの性なのかもしれません。
時代に合わせて常に変化できるのが人間の素晴らしさですが、
案外そうそう本質は変わらないのもまた人間です。
そしてそれは戦後の変革期においても一瞬にして失われてしまったわけではありません。

このブローチはまさにそんな現在への過渡期の中で作られたもので、
長い間の固定観念が大きく変わり,これまでにはない新しい要素が様々に含まれると同時に
長い間受け継いできた知と匠の伝統も軽んずることなく取り入れており、
はざまの時期だからこそのユニークさが堪能できる一点です。
モチーフは薔薇と思われます。かなりデフォルメしている部分も多く
それ以前には見たことのないシルエットを持っています。
大きな特徴は2点。

その一つは花びら部分です。アンティークの時代ではほとんど見ることのない
ゴールドをメッシュ状に編み込んだものをフレームに張ることで花びらを表現しています。
かなり大きな花びらが7枚重なっていてこれだけでもインパクト大です。
ただとても細い金線を用いて編み込んであり、反対側がうっすらと透けて見えるため
まるでレースのような質感で、ボリュームがある割に軽やかな印象です。

そしてもう一つが中央の花芯部分です。
一般的に薔薇の花を飾るときは蕾の状態から、重なった花びらがグラデーション状に
開きつつある状態のものを用いますので、花芯を見ることは殆どありません。
ところがこのブローチは目にすることの少ない花芯部分がジュエリーの中心になっており、
見たままを再現するだけではなく、モチーフが持つ要素の中から魅力を感じる部分に
スポットを当てて、そこを象徴的に表現するという新たな視点を感じます。

とても立体的な造形なので花の部分を正面から見てもリアルな花のシルエットそのままです。
それでいて輪郭となる太目のゴールドフレームに、メッシュ状の花びら表面という
リアルには無い質感であり、かつなかなか目にすることのない花芯が華やかにきらめく。
現実と非現実のバランス感覚が絶妙で幻想的な雰囲気をもたらしています。
そしてこの花芯部分。これでもかというくらい多数のダイヤがちりばめられていますが、
実はこのダイヤのあしらわれたおしべ部分は1本1本独立して作られており、
そのすべてが個別にゆらめくようになっています。
揺れるブローチ「トレンブラン」としてアンティークジュエリーで有名なものは、
ブローチ本体となる枝葉の部分に花部分を取り付ける際に、
バネ効果のある素材を用いて接続し、花全体が揺れ動くような構造になっています。
ところがこの花芯部分はそれらとは全く構造が異なります。

まずは花芯部分の根元となるベースに、おしべと同数の丸カン状のパーツを取付。
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その中心に軸より太目の穴を貫通させます。
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一本一本のおしべ軸の片側先端にダイヤをセット。逆先端から数㎜の位置に
ベースに取付けたものと同系の丸カン状のパーツを取付。
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ベースの穴におしべの軸を通し、抜けないよう穴より大き目のエンド部分を裏側に設置。
この時に軸の傾く角度を調整し、自然にゆれうごくようにセットします。
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軸にセットされた丸カン型パーツの効果により、
着用すると常にそれぞれのおしべの軸が左右に細かく動きます。
19世紀のトレンブランの様に花全体ではなく、それぞれのダイヤがフルフルと動く様子は、
ジュエリーを見慣れている方にも新鮮なビジュアルとして印象に残ることでしょう。

花部分と比べると小さめにアレンジされていますが、
葉の部分も同様に写実性と抽象性を掛け合わせたデザインになっています。
有機的な優雅な曲線のフォルムにはリアルさを感じますが、
葉脈などのディテールに目を向けると、線の太さ、間隔、角度などが整えられ
グラフィカルなイメージで作られていて、この組み合わせがとてもユニークです。

こちらは裏側になります。ボリュームのあるデザインなので、
着用時の安定度を高めるためピンを2本使った留め方が採用されています。
この構造により生地にしっかり固定されるためブローチ本体がふらつくことなく
ダイヤモンドのゆらめきが強調されることになります。

新しい視点での個性的なデザインと、長い間受け継がれた技術の裏付けがあっての
高度な作り。その時代だけの持つ魅力を体感してみてください。
By M.A.
ヴィンテージブローチ
商品番号:F419
20世紀中期
素材:ダイヤモンド、18K、 Pt








