Shellman Ladies' Antique Watch & Jewelry

Toriko

アーカイブ:黄金のアンフォラ

※こちらは旧伊勢丹店ブログ、2021年1月4日投稿分を再掲載したものです。

あけましておめでとうございます。
旧年中はご愛顧いただき誠にありがとうございました。
どうぞ本年もよろしくお願いいたします。

さて今年最初の一点は、新年にふさわしい華やかさと威厳を感じさせるこちらの品をご紹介したいと思います。

金の水差し型ペンダントです。タイトルにある「アンフォラ」というのは、
古代ギリシャ・ローマ時代から使われていた壺や甕(カメ)の名称です。

本来は土器や陶器製で、ワインや油、穀物など様々な物品を、運び、保存するための容器でした。

一般的には両側に取っ手のある細めの口部分に、ふっくらしたドロップ型の本体がつながり、底部が尖った形状を持ちます。さしずめ現在ならば瓶やコンテナといったところでしょうか。

長きに渡り広く生活に根付いた道具であったことも影響して、一時期、計測の単位として使われていたこともあるそうです。
現在我々が日常的にメール等で利用している「@」マークは、本来「単価」の意味で使われますが、上述の経緯もあって、一部にはアンフォラのことを指すという説もあるとか。
そういわれてみると壺を真上から見た形にも見えてきそうな・・・

実際にはこちらのペンダントは取っ手が一つ、反対側には注ぎ口が付けられており
アンフォラをモチーフにした水差しというのが正確な表現です。
それでも「アンフォラ」としてご紹介するのは、このデザインがインスパイアされたのが
アンフォラであることが確かだからです。

こちらが作られた19世紀には、イタリアを中心に数々の遺跡の発掘が行われました。

古いものは紀元前にまで遡ります。時代的にはギリシャやエトルリアなどの都市文明、
それらを吸収してのローマ帝国にいたるまで。西欧美術の起源とも言われる時代です。
なかでもエトルリアのものは、数千年前のものとは思えないほどの高度な技術を持っており、多くのジュエラーに多大な影響を与えました。

その代表的な技法が、グラニュレーションと呼ばれる粒金細工と、フィリグリーと呼ばれる線状細工です。こちらでも何度かそれらの細工を施したジュエリーをご紹介してきましたが、今回のペンダントが別格なのは、その細工こそを主役として極限まで突き詰めた精緻さにあります。

グラニュレーションはご覧の通り直径1㎜にも満たないような球状のパーツを装飾としてあしらったものですが、発見当時いったいどのようにしてこんな小さなパーツを作り、かつどのようにベースに取り付けたのか?多くの美術愛好家や宝飾職人を驚かせたと言われます。

厳密には当時の製法はいまだに不明な部分も多く、完全に究明されたわけではないようですが、それでも数千年前の金細工のすばらしさに感動を覚えた人々によって、
研究や試行錯誤を繰り返しながら再現された高度な技法です。

金製品のパーツをつなげる場合、基本的にはロー付けと言って、地金となる金よりも低い温度で溶ける「金ロー」と呼ばれる素材を用い、本体は溶けず「金ロー」だけが溶ける温度にすることで、それを接着剤代わりにつなげることがほとんどです。

ところが直径1㎜も満たないこれらのパーツでは小さすぎて、ちょっと温度調節を間違えれば一緒に溶けてしまいますし、そもそも金ローよりも量が少ないサイズではその中に埋没してしまいます。

そのため復刻されたグラニュレーションの多くは、その「金ロー」自体を使って成型し、
一つ一つの粒の接触面を溶かして付ける手法を採っていたとされています。
理論上ではむろん可能なのですが実際に作業するとなると、複数の粒金を使って装飾模様を描くような場合、火が同じ場所に当たり一つずつ付けていくことは難しいため、一度の作業でその部分を仕上げなくてはなりません。

散らばるようにばらばらに粒金を付けるだけならともかく、繊細な模様を描くとなると配置の段階で模様が完成していないといけませんし、もし火をかける作業中に一部でもずれてしまえばそこだけを修正することはできません。
平面的な部分に粒金を載せて作業するだけでも大変な神経と労力を要します。

しかるにこのペンダントは単なる平面的な板状のベースではなく、
まさに古代のアンフォラのシルエットを再現した立体的な造形がされています。
この緩急を付けたデリケートな曲面にそのような細工を施すことが
どれほど至難の業か想像に難くありません。

特にこの細工は粒金のみではなく線状細工と組み合わせて多種の模様を描いていますので、ベースに完成形の模様をセットすることを考えただけでも気の遠くなるような作業です。

装飾は花や葉などの植物文様をベースに飾り枠を組み合わせたものが大半を占めます。
粒金のサイズ、線状細工の形状、太さなども幅広いバリエーションを持たせ、小花から、唐草、渦巻き文様まで様々なパターンが一定のリズムを持ってリピートされています。

これらメインの細工を見るだけでため息が出るほどの美しさですが、さらに華やかさを引き立てるような細工が加えられています。

その一つは取っ手の最上部に取り付けられた鷲のモチーフ。
珍しく雄たけびを上げている姿ですし、翼とのバランスをみるともしかしたら鷲の頭部と翼、ライオンの体を持つ神獣のグリフィンかもしれません。

まあ画像では胴体部分はほぼ見えないので推測の域を出ませんが、そうであれば楽しいですね。

そしてもう一つが「水流」のモチーフです。
アンフォラのシルエットと古代ならではの細工を取り入れながら、両サイドに取っ手を持つ本来のアンフォラの形を採らなかったのはこのためであろうと推測します。

長いジュエリーの歴史の中でも、「動き」を表現したものとなると決して多くはありません。バネで花の部分が揺れ動く「トレンブラン」、房のようにモチーフから下がる「フリンジ」などが代表的なものでしょうか。

こちらは系統的にはフリンジに近い効果がありますが、何といっても単なる装飾ではなく、「水差しから流れ出る水」という、かたどっているモチーフの本質を表現していることがユニークです。

長さを変えた4本のチェーンとその先端にあしらわれたパールが、
流れ出る水と先端で泡立って白濁した様子を上手に再現しています。

そしてこのモチーフが生きるのも、重量バランスを含めて立体的に再現された水差しの形状のおかげです。
首から下げるためのチェーンを取り外してしまえば、ご覧のとおり自立するほどリアルな造形です。
この形のおかげで注ぎ口側から見ても、複数のチェーンがあたかも水があふれるかの如く見えるわけです。

こちらはチェーンを通すためのバチカン部分です。
本体の取っ手部分の裏側に、取っ手に沿って付けられたフック部にかけて使うのですが、もはや一般的な輪っか型の取り付け用パーツというような見た目ではなく、このバチカン自体がジュエリーと呼べるレベルの素晴らしい細工が施されています。

しかも両面の模様まで変えてあり、取り付ける側を選ぶことで装飾のバリエーションまで楽しめてしまいます。

また何気なく見えるフックの取り付け位置も、実は綿密に計算しつくされた位置に配されており、首から下げたときに注ぎ口から水が流れるようなイメージの角度が付くようになっていて、チェーンが揺れ動く様子に水のほとばしる躍動感が広がります。

ずっと見ていると、このペンダントが作られた19世紀をさらにさかのぼって
インスパイアされた数千年前の古代都市の時代にまでタイムスリップしたような・・・
そんな壮大な気持ちを抱かせてくれる名品です。

by M.A.

CJ400
ペンダント
19世紀後期
パール 22KYG

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